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若手社員お悩み相談所 第10回

小言社長物語 3

小言社長物語 3

今週はいよいよ小言社長のストライキの話ですね!? いやぁ、私ストライキを経験したことないんですけど…。

ストライキって、自社の上層部や経営陣に対して「この条件をのんでくれなきゃ仕事しないもん!」って、実務を人質に交渉するようなものなんですよね?

人質って…、ずいぶん過激ですねぇ。

まぁ間違ってはいませんが、これも先週のデモ行進と同じで、ストライキをしてはいても内心は人それぞれだったと思いますよ。

社長はあいかわらず、あんまり深く考えないでストライキに参加していたんですか?

ははは、そうですね。あいかわらず主体性もなく、当たり前のように参加していましたよ。

しかし、それも最初の内だけ。私は財務部という部署に配属されていたのですが、この財務部がストで業務停止してしまうと、不渡りが出てしまうのです。

ただでさえ吸収合併だ解体だと銀行やお客様からの信用不安が起きているところに「お金が払えません」という意の不渡りを出してしまうことは絶対に避けなくてはならないことでした。ここで会社側から財務部の社員に対して「スト破り」をするよう通達があったのです。

スト破り…? 何ですかそれ…?

スト破りとは、その名の通り「ストライキを破ること」つまりストライキをやめて仕事をするように、という通達ですよ。

財務部は会社の資金繰り、要するに会社のお金を動かす部署でしたからね。

んん? 会社のお金を動かす部署であることと、スト破りがどう関係しているんですか?

会社にとってのお金は、人間の身体に例えるなら血液です。

血液が不足したり、うまく全身を循環してくれないと人間は最悪死んでしまいますよね。それと同じで、会社もお金が円滑に動いていないと死んでしまう、つまり倒産してしまうのです。

財務部は、血液を送るポンプとしての役割を持っていましたから、血液を止めないために業務を続けなくてはならなかったのです。

なるほど。血液を送るポンプが止まってしまったら、全身に血液が回らず大変なことになっちゃいますもんね。

加えて、商売をする上で一番大事なのは信用関係です。不渡りを出す、つまり円滑にお金が払えないような会社に銀行はお金を貸してくれませんし、取引先だって不安のある会社よりは不安のない会社と仕事をしたいと思うはず。

そうして銀行にも取引先にも離れられてしまえば、血液そのものはどんどん減っていってしまいます。

そうなれば会社もいよいよ倒産です。だからこその「スト破り」通達だったんですよ。

へぇ。でも他の部署はみんなストライキをしているんですよね? 文句を言われたりはしなかったんですか?

もちろん。

文句どころか、力づくで業務を止めさせようとさえしてきましたよ。

ですから、財務部は部屋の中からカギをかけて、他部署の人間・労働組合の人間が入れないようにしながら業務をしたのです。

ふわ~、大変…。

そうですね、本当に大変でした。

ドアのカギを開けていると他部署の人間が入って来てしまうというので、用を足すのはゴミ箱に、銀行に持って行かなければならない書類はエレベーターを使わずに窓から紐で吊るして降ろしていましたよ。

私は新入社員でろくな仕事もできませんでしたから、せめてトイレの処理くらいはと鼻をつまみ、すごい匂いのゴミ箱を片づけていました。

き、貴重な体験ですね…。

はは、全くです。この1年は、私の中でも強烈な思い出となっていますねぇ。

若輩だった私は窓から吊るした書類を持って銀行廻りもしていたのですが、その年の大晦日にね、某銀行の守衛さんに「A産業さんですか? 大変ですねぇ」なんて同情の声をかけられたときには、悲しいやら嬉しいやら情けないやら…複雑な心境になりました。

そのあとやっと仕事が終わって、1人で食事をしながら見ていた紅白歌合戦の都はるみの唄が今でも忘れられません。若い人に演歌の叙情を理解してもらえないのは残念ですが、あのときは演歌が私の心を慰めてくれたんですよ…。

へ、へぇ…、そうですか…(社長が遠い目になっちゃったよ…)。

と、ところで、その年が明けたらA産業はすぐに合併しちゃったんですか?

いや、そう簡単にはいかなかったですね。

まずは「合併準備委員会」なるものができて、A産業の商圏と社員の「継承・非継承」の選別作業が始まりました。

メインバンク・サブメインバンク・I商事の人たちが乗り込んできて作業するのですが、商圏の選別はともかく、人間の選別が始まると、ますます社員たちの心は荒んでいっているようでしたね。

小言社長はどうだったんですか? ちゃんと継承してもらえたんですか?

私なんて新入社員でしたから本来なら継承されるはずもないのでしょうが、社会人1年生の首をいきなり切るわけにもいかなかったのでしょう。

I商事に継承されることになりました。

私の母は「I商事に行けてラッキーじゃん」なんて言ってましてねぇ、当時は「人の気も知らないで、脳天気な…」と思っていましたが、今思えばあれも私を励ますための親心だったのでしょう。はは、懐かしいですねぇ。

結局、A産業の社員は何人くらいがI商事に継承されたんですか?

5千人ぐらいいたA産業の社員のうち、継承されたのは1千人くらいだったと思います。他の人たちは他企業に転職しましたよ。

私は新人でスキルも何も持っていなかったので、首を切られていたら受け入れてくれる会社なんてきっとどこにもなかったでしょう。そう思えば、I商事に継承されて確かにラッキーでした。

小言社長は運がよかったにしても、それじゃあ約4千人もの人がリストラされちゃったってことですよね…。

そうですね。4千人の人が職を失ったということは確かな事実です。

ただ、私と違って海外在中経験が長かっただとか、外国為替についての知識が豊富だとか、スキルを持っている人はその分他企業も受け入れてくれますからね、どんどん転職していきましたよ。割とあっさり転職できた人もいたのではないでしょうか。

現在のように転職が日常茶飯事に行なわれている時代ではありませんでしたが、いざとなったときでも優れた技術を身につけている人たちから転職できたという事実は、現在と変わらないのではないでしょうか。

いつの時代でも、秀でたたくさんの技術を身につけることが、最終的に自分自身のためになるということでしょう。

な~るほど。実際に大リストラを経験した人が言うんですから、そりゃ説得力がありますねぇ。

はは、そうでしょうそうでしょう。「芸は身を助ける」というのは確かに真実ですからね。日頃から自分を鍛えておいた方がいいですよ。

さてどうでしたか? 3回に渡って私の新入社員時代のお話をいたしましたが、少しでも皆さんのお父様や上司の新入社員時代の空気を感じ取ってもらえればと思います。

次回からはまた通常のお話に戻りますが、また機会があれば私の実話経験談をお話しいたしましょう。

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